最近、同僚とITIL4が実現可能な時代はいつ来るのか?というディスカッションになり。それってそもそも前提がおかしいんじゃないかなと思いこの記事を書きます。
さて、まずは前提の確認です。
今までもITIL4について基礎研究を繰り返してきましたが、違いについてはばらばらと書いてきてしまいました。そのため、ここで一区切りということで、私の考えるITILv3とITIL4の違いについて整理したいと思います。
同じ粒度でITILv3とITIL4*1を書こうとすると、おそらく下記の図になります。
また、学術的にITIL4を解説している諸先輩方も明言されていますが、ITIL4の6角形に見える部分は直方体です。平面じゃありません。立体です。ご注意*2ください。なお、ITILv3は平面です。
ITILv3は、「サービス」が接頭語になります。そしてサービスをぐるぐる回すというところから、「サービスライフサイクルアプローチ」と呼ばれています。
それに対し、ITIL4は、直方体のど真ん中に「価値」が置かれています。
これらを並べてみると以下のようになります。
一番の違いは中心に据えているものです。
ITILv3はサービスを中心に据え、サービスライフサイクル、つまり、サービスが企画され、最後サービスの終了を迎えるまでの全体的な揺り籠から墓場までをコントロールするものです。「どうやって提供するか」「どのように提供するか」がどこまで行っても中心でした。
それに対して、ITIL4は、価値が中心になっています。ちょっと極端な言い方ですが、サービスが手段になったわけです。決してサービスを軽視しているわけではなくて、そもそもユーザに価値を提供する、そこに重きを置いて、「どうやって?」をもっと根本的に見直しているわけです。そういう考え方で言うと、価値を提供する組織及び個人に対して焦点を当てています。ある意味でITIL4はユーザに価値を提供しようとする集団に対してナレッジ(プラクティス)を提供する、つまり、ITIL4は提供しようとする人のためのものになったわけです。
ITILv3は、サービスが求められなくなれば終了だったのです。
ITIL4は、価値を提供する手段としてのサービスそのものが変化すると定義したわけです。
こう考えると、ITILv3とITIL4、どちらが優れているのかと言う議論は若干的外れと言わざるを得ません。もちろん、学術的にはITIL4の方がカバー範囲は広く、より本質的であり、適用するならITIL4の方が良いと思います。
しかし、我々ITSMの実務者としてはどうでしょうか?ITSMは何のために導入するかといえば、大きくは2つ。
- ITサービスがより低価格でサービス提供ができること
- ITサービスが売上拡大につながること
これしかありません。しかし、忘れてはいけないのは、それはいつまでに達成しなければならないか、と言う観点です。それらを踏まえて整理した図が下記です。
基本的には、ITIL4はITILv3のアップデートなので、ITILv3がカバーできている領域をカバーできます。しかし、ITIL4の「価値中心」の考え方に組織やガバナンスといった企業の仕組みがついて来られるか?と言う点に注目しなければいけません。個人的な考えとしては、短期的には無理です。なぜなら、この「仕組み」は極論すれば各組織の内規であり、企業文化です。したがってこれを変えることを視野に入れるとすると短期的な効果は見込めません。AgileだDveOpsだと新しい考え方での開発に積極的ならば、ITIL4をDITSの文脈で取り入れることは可能でしょう。
そう言う投資に消極的で、コストを下げることをベースにしている組織において「価値中心の変革推進から始めましょう!」と説得したところで多分無理です。目先のコスト削減に目がいってますので。
であれば、まずは文化や内規を大幅に変える必要のないITILv3の導入から始め、効果を刈り取りそこから始めると言うのは十分有効であると考えます。
ちょっと強引ですが、
ITILv3は「ちゃんと企画され設計されたサービスは、ユーザに価値を提供*3していれば、損益分岐点を割るまでサービスを提供し続けるし、継続的な改善を通してプロセスを見直し損益分岐点を可能な限り引き下げ続ける」
と捉えています。対して、
ITIL4は「売上があるのは、価値を提供している証拠。利益が最大化されているというのは適切なスキルを持ったリソースとテクノロジーを使っている証拠。但しPESTELを無視した利益を出してはいけない」
と捉えています。
こう考えた時、今回適用しようとしている組織にはどちらがよりフィットするかを総合的に判断した上で、どちらに取り組むべきかの意思決定が必要なのではないかなと思います。
シンプルに書けば、短期的なコスト削減、ガバナンス強化を望むのであれば、ITILv3。中長期的に事業体として無駄を削減しつつ売り上げの最大化、マーケットの極大化を狙うのであればITIL4。となると思います。