なにしてみよっか

サービスってなんだろな?を細々と。基本マニアックなネタが多いです。トヨタ生産方式を信奉してます。某製造業の営業と社内SEをやってました。

今あるサービスをITIL4で検算してみる-みんなの銀行はカスタマージャーニーをこう変える-(5/5)

さて、最終回・・・・だったはず。

実は書きたいことを5つに絞っていたのですが、書いているうちにITILに一切関係のない金融・会計・経済の関係の発想が生まれたので、それは追って2回に分けて書く予定。

……全7回って結構壮大だな……。

(当初の)最終回は、みんなの銀行はカスタマージャーニーをどう変化させるか、です。

本日は結論を先に書きますが。

  1. みんなの銀行の効果が浸透してくるとユーザにとっては口座が財布になる
  2. サービスプロバイダは、ユーザの決済の好みに合わせたお金の回収方法をカスタマージャーニーの中に含めておかないと機会損失、回収もれ、DXの推進を鈍らせることになる。

です。

 

この話をする前に、そもそも、物・サービスを「買う」とはどういうことかを理解しておく必要があります。買うとは端的に言えば「価値移動」です。物またはサービスを要求し、受け取った後に等価(とお互い合意した)価値を交換する。この一連の価値移動の行動が「買う」ということです。(図5-1:「購買」のカスタマージャーニー)

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図5-1:「購買」のカスタマージャーニー

ニューピー「みんなの銀行」は、この単純なモデルで考えたときに、どこでどの様なサービスを果たすのか。

「どこ」は簡単ですね。③です。では「どのように」かというと、一部金融機関で実施していたデビット決済だけではなく、今までどの銀行も手を出していない「現金での決済」も便利にした。(図5-2:支払のカスタマージャーニーの変化)

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図5-2:支払のカスタマージャーニーの変化

これは一度経験いただければわかりますが、衝撃的な変化です。例えば、現金必要だ。と思い出しても多めに引き出そうと思わず、セブンイレブン目掛けてダッシュして最低限下ろせばいい。日常使いはほぼデビットで生活できるのであれば財布は常に1〜3千円で全く困りません。

みんなの銀行は、セブンATMを活用することで、支払手段として現金とデビットどっちでも選択できるようにした。自分の口座のお金をデビットで直接決済か、コンビニに寄る手軽さで現金化することができるようになった。

口座のお金をリアルの取引とバーチャルの取引どちらにもお手軽に使える様にしたんですね。

これは、一見すると大きな変化ではありません。

しかし

  • 口座の中にあるお金が一瞬で現金になる
  • 口座から引出すことなくジュースに変わる
  • 振込手数料無料・口座番号なしで振り込み完了

このように考えるとみんなの銀行の口座がただの口座ではなく、財布代わりに使えてしまう。

口座が財布になる。大きなパラダイムシフトです。

このパラダイムシフトがなし得ることは2つです。

  1. デジタルネイティブから見れば、財布にならない口座なんかいらない(面倒くさい)
  2. 口座(財布)が使えない取引ではよっぽど価値の高い物*1以外買わない。

1は、最初に述べた通り、口座が財布になる。

問題は2です。サービスプロバイダは、カスタマージャーニーをコントロールし、顧客が価値を得るまで伴走することで対価を受け取ります。

図5-1の①要求〜③支払までを一意のレコードとして管理し記録する際、現金であれ、デビットであれ、クレジットであれ、月末目翌月払いであれ、どのような支払手段であっても対応できるように、かつヘルシーに従業員が働けるようにそれぞれでプロセスを準備し確実かつ簡便な方法で記録できるよう(つまり、業務プロセスを整備、最適化)にしておかないと、年度の決算で不都合なことになったりしますよ、ということです。

日用品を扱う業種、業態は希少性は高くありませんのでよりこういった便利さに長けた決済手段を備えておかないと淘汰される可能性は十分にあると考えます。

 

 

まとめます。

みんなの銀行は、現金を最も確実で堅実な決済手段の一つから、複数あるうちの一つにしてしまう。

そのため、サービスプロバイダの中でも、特に一般消費財や日用品などを扱う業種やSPAなどのサービスプロバイダはカスタマージャーニーを支払という接点にまで拡大しないと淘汰される可能性がある。

私から見れば、みんなの銀行は小さいですが確実に新しいさざなみを起こしました。確かに地銀第一行の資本100%ですが、お客様をユーザとみなした、この一点において既に成功していると思います。また、DXという点でも初動は成功*2です。

裏を返せば、この決済方式の多様化は、今後サービスプロバイダに対して早めの対策を打つ必要性を示唆しています。セルフレジ化でほっと一息ついていると……次の荒波に飲み込まれてしまうかもしれませんね。

*1:いわば、趣味性の高いもの、希少性が高く、そこでしか買えないものや体験

*2:既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、DXは1回やって成功したからOKではありません。

確かにみんなの銀行は某青色都市銀行(断っときますが、嫌いではないんですよ。事例としてわかりやすすぎるだけで)が数千億円かけてできなかったことをたった数十万円で実行できてますのでDXの成功例ですよ。ですが、元々のこんがらがってる土台がなく、目的に純粋に進めたが故の話なのでDXが成功するのは当たり前と言えば当たり前の話。

DXが上手くいかなくてウンウン唸ってる大企業が多いのは、「なぜ」を問いかけてもそれに答えられる目的を知っていたり指し示せたりする人がいない&そういう文化を育ててないから、メタメタのグッダグダになるんです。その点、みんなの銀行は、「そもそも」からちゃんと話し合い、自分たちが何を提供すべきなのか、をきちんと合意して進めていたように見えます。だから、成功は約束されたも当然なのです