なにしてみよっか

サービスってなんだろな?を細々と。基本マニアックなネタが多いです。トヨタ生産方式を信奉してます。某製造業の営業と社内SEをやってました。

KPI/SLA/SLOの関係性を考える 5/4(延長) -運営が、経営・運用の組織に動的に関与してもらう-

こんにちは。前回の記事で、ITサービスマネジメントは経営である。という話で締め括りましたが、さまざまなご指摘を頂戴しました。そのため、再度整理すると、自分自身が経営と運営を明確に切り分けできていないなと痛感いたしました。そこで、延長戦として、改めて経営と運営とを明確に定義します。

その上で、前回の記事はそのままに、改めて本稿で改訂いたします。

なお、旧記事は(未改訂版)と注釈を入れます。

KPI/SLA/SLOの関係性を考える4/4 -KPI/SLA /SLOの定義は「経営」- - なにしてみよっか

 

では、本稿を始めます。まず、前回の記事、さまざまな方からご指摘を頂戴したのですが、そのご指摘を並べてみると人のおっしゃっている言葉の定義が微妙に違うことに気がつきました。つまり、人によってイメージしているものが違う。実際ご指摘をくださった方々もそれぞれの立場での発言を行なっていて*1、どう定義すべきなのかについて議論をしていただいていました。それらを眺めてまとめ、おおよそ何か特定の目的を果たそうとした時どのような役割が必要なのか(つまり登場人物の全体像)が見えてきました。

それが図1:経営・運営・運用の役割(ロール)定義です。

ざっくり言えば、この3つの役割が必要です。

図1:経営・運営・運用のロール定義

商人に例えていますが、大切なことは太字にした部分です。儲けることが大切なのではありません。「(戦略を)決定し定義する」「(戦術を)実行し(戦略を)改善する」「(作戦を)実行し続ける」この3つが必要であるということです。要するに、「決定」「定義」「実行」の3つをそれぞれの立場において実行するということです。儲けるということは、ここでいうと目的にすぎず*2解き明かしたいポイントではありません。

ここで大切なことは、KPIやKGIなどの初期定義とKPIの改善は別のロールで行うものであるということです。ここをITSMとして混同しておりましたが、ここは明確に分けなければいけないところでした。

それと同時に、杓子定規に必ず分けなければいけないものでもない、ということも勘定に入れておかねばなりません。つまり、自社が提供しているサービスは1つだと定義するのであれば、経営と運営は同一で合っても構わないということです。(旦那と番頭を分ける必要がない)ただ、これってほぼ例外に近いと思われます。正確に言えば、スタートアップ企業限定かなと。明確な基準を申し上げることは難しいのですが、最大でも10名程度の社員規模で、サービスとしては特定のペルソナに絞ったサービスを提供している、、、というようなイメージです。

いわゆる中小企業と言われる規模であっても企業規模によらず、組織として複数組織を持っている企業は、最低でも経営と運営を分けた状態を作るべきであろうと思います。組織や人として完全に分けろ、とまでは言いませんが、少なくともロールとしては分けていて、組織または人に集約しているという状態が必要ではないかなと。恐らく、ここを明確に分けていない組織がそのまんま大きくなると破綻するんじゃないかなと。

 

閑話休題

今回改めて、ITSMとして、「経営」「運営」「運用」を定義してきました。 *3

では、それぞれのITSMの指標が「経営」「運営」「運用」とどのように関わるのかを改めて定義しましょう。それが「図2: (筆者の考える) ITSM運営時における各指標への関わり方」です。

図2:ITSM運営時における各指標への関わり方

なお、「自分はどこ(例えば、「運用」)を担当している、だからSLOに責任があるのだ」と思い込まないでください。これら3つの登場人物はあくまで今回定義したロール(役割)に基づいて幅を持って作成した下敷です。

この下敷の使い方は、「自分の役割」を定義するものではなく、それぞれの「サービス構成組織」を定義するための羅針盤として考えてください。

説明が難しいため、「図3:フェーズごとに組織の関与レベルを調整する例」をご覧ください。

図3:フェーズごとに組織の関与レベルを調整する例

このようにサービスを設計しているタイミング、サービスを運営しているタイミング、サービスに変更を加えている(新たな開発を行なっている)タイミングにおいて、経営と運営と運用それぞれの立場の関わり方が変化しています。お伝えしたいのはこういうことです。

つまり、図2は図1のような責任と権限を持った経営と運営と運用が揃った時に一般的なロールとして下敷きを置きつつ、図3の示す通りに各組織がそれぞれのフェーズで指標に関与するということを表しています。つまり、下敷(1/2)をベースに自分たちのロール設計(2)を行い、サービスのフェーズごとにそれぞれの役割を柔軟に変えながら指標に関与してゆく(3)ということです。(4:指標への関与とサービス運営の一連の流れ)

指標への関与とサービス運営の一連の流れ

さて、話があらぬ方向に向かってしまいましたが、結論としましては、「経営組織」と「運営組織」と「運用組織」。その3つがあるとしたとき、ITSM組織は運営組織です。しかし、運営組織だからといって、運営組織として自らを枠にはめるのではなく、そのサービスのフェーズ毎に、関係する「経営組織」「運用組織」と調和させながら、それぞれの指標にその意思を反映する。そうすることで最適な指標を維持し続けることができる。そういうことではないのかな。と考えます。

今回非常に悩みました。。正直なところ、一つテーマで扱うものではないと思いましたが、さまざまなご指摘をいただいたことがきっかけとなり、経営と運営の違いを改めて真剣に考える機会に恵まれたことに感謝いたします。

 

*1:全然関係ないですが、この自覚した状態で話せる、つまり、前提がズレている状態で喋っていると全員が自覚している場というのは本当に良いですね。あげあしを取る人もいなければ、炎上もしない。つまり心理的安全性が高い。こういう本質的な「寛容」さが今後求められる時代であると本当に思います。

*2:目的は大切なものなのですが、この文脈においては、大切ではないという意味です。ここで定義したいのは、あくまで「経営」「運営」「運用」とは何者か?ということで合って、この3つが何を目的に集っているのかが重要ではないということです。

*3:この「経営」「運営」「運用」の定義については本当に散々悩みました。本来的に経営にDirection(方向づけ)の機能を入れるならExecution(遂行・実行)はどう位置づけるかとか、ではGovernance(統治)はどうこれらの要素を補強するのかとかですね。しかし、これら「Governance(統治)」「Execution(履行・実行)」「Direction(方向づけ)」「Management(管理・運営・経営)」「Operation(運用)」や、日本語としての「経営」「運営」「運用」といった言葉達はそもそも言葉を使う人の理解や定義によっておおよそその意味が変わってきます。そう考えると、ITSMとして、これらの言葉をどうか使うべきかに注力すべきであって、経営の本質とはなんぞやとかそう言うことを議論したいのではないなと。一周回って、ITSMのための「経営」「運営」「運用」の定義を整え、あとは、定義した役割に基づいて、組織設計をするのだと考えました。この組織設計は、その事業体がどう意思決定をしたいのか、であるとか、そこに集う人間のスキル、素養、マインドセットによって「最適」な状態は変わります。ロールにピッタリハマる人を探す/集った人たちのアセットをベースにロールを設計する。どっちを選んでもいいよなと考え、アメーバ的に変化し続けることで最適な指標を維持するという考えに至りました。