なにしてみよっか

サービスってなんだろな?を細々と。基本マニアックなネタが多いです。トヨタ生産方式を信奉してます。某製造業の営業と社内SEをやってました。

ITSM実践編-本社機能(コーポレート機能)とPESTLE

こんにちは。本日は、ITSM実践編として、企業、特に株式を上場している企業(株主への説明責任のために一定以上の透明性を持った事業を遂行する企業)において、ITIL4が実は企業のことを考えて作られているのだ、と言うことを説明しておきたいと思います。

 

 

初心者向けの実践です。いわゆる、「素人質問で恐縮ですが・・・」*1に焦らないためのものです。(笑)

 

まず、PESTLEをちゃんと説明していないような気がしており、そちらの説明から始めます。

PESTLEとは、ITIL4における6つの外部要因のことを指します。下記図の破線にオーバーラップしている6つの要因です。(この図を単体で初めて出しました)

ITIL4における4つの側面と6つの(外部)要因

この6つの外部要因の頭文字をとってPESTLEです。大切なことは、この6つの外部要因はサービス提供事業者には変更できないと言うことを理解しておくと言うことです。正しく捉えて情報収集し、6つの外部要因に合わせて4つの側面を変化させ対応するるため定義しているだけだと言うことです。

  • 政治的要因(Political)
    • そのビジネスを行う上での政治的な要因を指します。ものすっごく極端なことを言えば、その国・地域・地方においてどのような「統治」がなされているかと言う要素です。
  • 経済的要因(Economic)
    • その国、地域の経済成長や経済の安定性などを指します。例えば、インフレ傾向であるため、さまざまなものが値上がりすることが想定されるとすると、4つの側面それぞれに影響しますよね。パートナーとサプライヤは値上げするでしょうし、組織や人材にも給与面でインフレを考慮する必要があります。
  • 社会的要因(Social)
    • これも捉え方が難しいですね。社会的な要因でビジネスが果たす役割が変わってくることを指します。例えば、昨今「企業の社会的な責任」と言う文脈で企業は様々なことを求められています。一番いい例としてはSDGsでしょうか。「8.働きがいも経済成長も」なんかはこのような社会的要因によるかなと考えられます。
  • 技術的要因(Technology)
    • 言わずもがなですが、AI(Chat GPT)やクラウドをはじめとしたPaaSなどこれらを扱うのか扱わないのかを選択するためには、そもそも情報を収集し使いこなせるのか、または使いこなすために何をするのかを常々考える必要があります。
  • 環境的要因(Environment)
    • 先ほどのSDGsで考えることができますよね。例えば、「事業活動に要するエネルギーで発生するCO2をゼロにする」なんて目標がたったに日には、情報システム部はDCで使用するエネルギーを再生可能エネルギーに変える必要性が出てきます。
  • 法的要因(Leagal)
    • これもわかりやすいですね。事業をする上で関連するありとあらゆる法律に適合していることを保障しないといけません。

ちなみに、これらは複合的に絡み合います。具体例を示しましょう。

Chat GPTに対して政府が方針を示さなかったと仮定します。その時「便利だから」と言う一点において、ChatGPTをコアテクノロジーとして使ってしまったと考えてみてください。その後、政府が公式にChatGPTの利用を禁じてしまったら、ビジネスそのものが成り立たなくなりますよね?*2

この事例は、政治的要因と技術的要因が、4つの側面の「2.情報と技術」に作用したと言うことです。

同様に、労働3法(労働基準法労働組合法、労働関係調整法)は6つの要因に対してどのように影響するでしょうか?

私が思うに、「法的要因」のみならず「政治的要因」「経済的要因」に作用します。このように我々が普段見聞きするビジネスを取り巻く環境に影響を与えるキーワードはこの6つの外部要因に照らして分析することで、その影響が見えてくるのです。そして、この6つの要因はビジネスが作り上げたサービスに対しても作用します。

例えば。個人情報を使った新しいサービスを思いついたとします。それに対して「法的」「社会的」「経済的」逸脱をしていないかを予めチェックすることが求められるますよね。

個人情報を使った新しいサービスといえば。そう、マイナンバーカード。

今様々なところで様々な観点で散々文句を言われたり揶揄されたりしていますが、これも結局この6つの要因で考えると、「社会的要因」のチェックの甘さで今トラブっているし、マイナンバーカードで提供されるサービスのうちコンビニプリントサービスは「技術的要因」で下手こいた。

この様に、サービスの分析もできるし、世に出す前のレビューでも使えるのです。

 

さて、質問です。ITSMの実務者として、または、情シスの担当者として、これら6つの外部要因それぞれに対して正確に分析・把握することはできるでしょうか?

正直に申し上げます。無理です。我々が普段見聞きするビジネスを取り巻く環境に影響を与えるキーワードに対して、「政治的」「経済的」「社会的」「技術的」「環境的」「法的」の観点でチェックするなんてできませんって。範囲が広すぎます。じゃあ、どうするべきか。Chat GPTを使うなどはある意味では正しいのですが、今議論したいのは、Howの枝葉を議論することではないので。(笑)

もっと根本的な話として、これら6つの要因は企業におけるコーポレート機能が担う業務だと言うことです。

PESTLEとコーポレート機能

つまり、コーポレート機能とは事業部門が自由にビジネスを行うための番人。なお、ここでいう自由とは、「好き勝手に進められる」と言うことではありません。「何かをはじめようとする時に、そのしたいことを外部要因で妨げられないこと」です。もう少し簡潔にいえば、自由とは、「したいことを進める上で妨げられないこと」と言い換えてもいいです。(限度はありますけどね)

つまり、事業部門が何か新しいことをはじめようとする時に、「社会的要因の件について事業部門様はどの様にお考えですか?」と言ってしまうのではなく、「事業部門が進めている案件について、社会的要因であるXXが障害になる可能性があるため、ZZの様な対策を検討しましょう」と言えることです。まぁ、こうできるのは最低限で、最も適切なのは、「このやり方で検討してもらえれば、あなたのやりたいことは実施できます」と言うレベルの仕組みに落とし込んでいる状態が最も適切です。(調整する必要すらないので)

なので、ビジネスを進める、その一点においてサービスをオーケストレーションしたい人は、この6つの側面とそれに相対できるコーポレート各部門のプロフェッショナルと仲良くなり、「教えてください」「助けてください」を明確に言える様になっておく必要があります。

この役割は、一般的にはサービスオーナ、またはプロダクトオーナと呼ばれる人の役割だと思いますが、それに限らず、この整理術に気がついた情シスも同じように応用できます。

 

前回ご説明した役割とともに、「会社の歩き方」としてPESTLEに相対できる社内のプロフェッショナルを頭に叩き込む。こうするだけで、あなたは、自分の考えたサービスが早くリリースできるようになるはずです。

 

実はこの概念はかなり昔から整備されていて、本質的に「会社の歩き方」がわかっている人は本当は今でも事業を自由に進められるんですよね。それは次回、説明したいと思います。これは、持ち運びできるスキルなんです。今までは暗黙知として社内のみに閉じていましたが、やっと可視化されたスキルなんですよ。

 

珍しく次回予告。「PESTLE」はすでに制御されている。

*1:別バージョンとして、「基本的な質問で恐縮ですが」もありますね。要するに、基礎知識の理解及び説明が足りていない可能性を考慮しての枕詞であり、だいたい質問者は素人ではないと言うのがキモです

*2:本筋と関係ないので注釈で。こんなことありえないと思いますか?日本は憲法に基づき、一定の自由が保障されていますが、一方、他国においてはその権限がない国もありますよね?軍事クーデターが起きたミャンマー、強権を発動しているフィリピン、一党体制の中国、北朝鮮。使用するテクノロジーに対して自由であると断言できますか?ITILはグローバルナレッジです。それぞれの国の事情も勘定に入れておく必要があります。