なにしてみよっか

サービスってなんだろな?を細々と。基本マニアックなネタが多いです。トヨタ生産方式を信奉してます。某製造業の営業と社内SEをやってました。

今あるサービスをITIL4で検算してみる-セブン銀行の凄み-(2/5)

先日、セブンイレブンとみんなの銀行のコラボレーションすごい、という記事を書いたのですが、本日はもう少し、生々しい話。

 

お客様は誰か?ということを論じたいと思います。

結論は、セブン銀行はATMでできるサービスを究極的に見直した。その結果、お客様が増えた、と言うことです。

 

この結論に辿り着くためには、お客様の定義から確認せねばなりません。これは、ITIL4で言うところのサービス消費者組織は誰か?になります。そしてそれを解き明かすためのITIL4のフレームワークが「サービス関係モデル」です。

 

若干駆け足気味ですが、以下の図(図2-1:セブン銀行とみんなの銀行とのサービス関係モデル)をご覧ください。

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図2−1:セブン銀行とみんなの銀行とのサービス関係モデル

お客様はサービス消費者のことですが、このようにトライアングル構造にもなると考えました。*1お客様がセブン銀行ATMの目の前に立った我々だけではなく、みんなの銀行もお客様になっているのです。現金引出し時はお客様が2組織になり、現金預入の時もお客様が必ず1名いる。しかも、預け入れの時のお客様は何ともありがたい存在です。*2

つまり、セブン銀行のATMはATM機能(現金自動預払機能)に特化したんです。

ATMに求められる究極的な機能は、入力された金額を過不足なく確実に払い出せる機能と、預け入れられた金額を一円の狂いも無く計測し記録する機能ですよね。だって、「預け」「払い」機なんですから。それ以外の機能はおまけです。

どこかの銀行のように冗長な業務プロセスを組み、その中で正常処理ができなかったらキャッシュカードや通帳を止めて社員による目視を経ないと返さないと言う機能は要らないはずです。記録できない、払い出せない恐れがあれば、そこで処理を止めて無かったことにし、カードと通帳を返すのが正しい姿です。

この、最も担保しなければいけない最小機能のことを、MVP(Minimum Viable Product)と言います。実はこれ、Agile開発で普通に出てきます。

サービスプロバイダとして関係する全ての利害関係者に対して自分(ATM)は何をもって役に立つことができるのだろう?と本質に立ち返り、最小機能のみに特化してその機能を洗練させる。そして、それぞれの消費者に対して、繋がりやすい(便利である)と言う顧客体験(流行り言葉ではCX)を追求した。サルトルですよ。実存主義ですよ。

CXを追求した結果、お客様がATMの前に立つ人だけではなく、現金を預けて払った結果教えて欲しいという企業もお客様になった。

おそらく、セブン銀行ATMの「中の人」は、自分たちのATMを一般的なATMではなく、現金を払出し、預入れて記録し、その記録を欲するサービス消費者に届けるというマルチメディア端末という発想になっているはずです。つながりたい組織もサービス消費者(お客様)ですから、当然、繋がるための手数料もみんなで仲良く全銀NWに比べて格安にするでしょう。このATMにとって競合は他の銀行ではなく、官公庁が旧態依然の考え方で作り上げた全銀NWなのですから。

 

これが意味するところは恐ろしいものがあります。キャッシュレス全盛期の昨今ですが、どこまで行っても現金は一定は必要です。*3

リアルなお金をいつでもデジタルに変換でき、デジタルマネーをいつでもリアルに戻せるATMなのです、この子は。

リアルに生きる我々にデジタルな世界にある数字(お金)をリアルに戻す出入口として、「近くて便利」をいつでも提供してくれる。

 

どこまで狙ったのかわかりませんが、彼らはただの銀行ではない。サービス消費者を増やすために自分たちの提供できる機能を貪欲なまでに増やす。何というか、Amazonのような凄みを感じます。

*1:このトライアングルになっちゃう考え方はサービスを共創するという考えでは当たり前だと思いますし、ITIL4に出てくるService Dominant Logicにも通じると思うのですが、本論と外れるので割愛

*2:警備会社を雇わなくても、現金を補充してくれる。無料にしたくなりますよね、預入。みんなの銀行でセブン銀行ATM経由で現金を預入れる場合、手数料無料の謎が解けますね

*3:個人経営の病院ってデジタルなお金使えないなーと思うことが多く、困ってます