なにしてみよっか

サービスってなんだろな?を細々と。基本マニアックなネタが多いです。トヨタ生産方式を信奉してます。某製造業の営業と社内SEをやってました。

ITサービスマネジメント実践編-プロセスとフロー詳細版

こんにちは。本日は、よく混乱して使われているプロセスとフローの話。

なお、これは、本当に全てのITSM実務者に理解してほしい最重要概念です。

※なお、本日の内容は、ITILv3のファウンデーションを理解している前提で書いています。

 

突然ですが、インシデント管理プロセスとインシデント管理フロー。この違いを明確に説明できますか?

本日結論を先に書きますと。

  • インシデント管理プロセス=インシデントマネジメント処理標準
  • インシデント管理フロー=インシデントコントロール手順

です。英語でマネジメントは「管理」、コントロールは「制御」ですが、実務としてこの管理と制御を厳密に区別せず取り扱っている人が多いです。

さらに、プロセスとフローの違いも明確に区別しない(できていない)人が多い。

プロセスは「処理」です。フローは「流れ」です。

大事な概念なので、再度記載しますが、本来的にITILv3及びITIL4で謳っていることはプロセスは「管理」するための「標準」です。マネジメントの考え方を整理しているだけであって、制御方法を定義していません。従って、それら管理するための標準を具体的な手順及び流れに落としたものがフローです。(図1参照)

図1:プロセスとフローの違い

従って、プロセスはあくまで処理のガイドラインとして使うものなので、具体的な事象にフォーカスしたものをプロセスと名乗ってはいけないのです。あくまで汎用的に示したものである必要があります。

さらに、「フロー」と「作業管理フロー」を同一視してはいけません。

ちょっとごちゃっとしてきたので整理すると変更管理で例えて整理します。

  • 変更管理プロセス=変更が必要となる作業を実施するために汎用的に定めた処理標準
  • 変更管理フロー=変更が必要となる作業を実施するためITSMで定めた手続きの流れ
  • 変更作業管理フロー=「変更管理」を必要とする作業をE2Eで管理するために定めた手続きの流れ

です。

したがって、「変更管理フロー」は「変更管理を必要とする作業管理フロー」ではありません。それが成立できるのは、ユーザが「自分の依頼した作業は変更管理を必要とする作業である」と理解している場合のみです。(細かく説明しなくてもE2Eに関わる全ての関係者が知っている状態)
しかし、ユーザおよび顧客は自分の依頼する作業が変更管理を必要とするものかどうかなんて知ったこっちゃないですし知りません。正確に言えば知る必要がない。よって持って、それらの基準は変更管理フローに至る以前の段階で判断する必要があって、そうなると当然インシデント作業管理フローにそのエッセンスを取り入れる必要がある。

それらプロセス同士の関係性を加味してフローという具体的な手順に落とし込んでいく。それがフローになるので、「変更管理を必要とする作業管理フロー」を定義したいのに、その作業管理フローの名前を「変更管理フロー」と定義してしまうと、変更管理プロセスと混同してしまう可能性があります。加えて、そもそも具体的に変更管理を行う上での登場人物と役割、手続を整理した「変更管理フロー」が必要なので、お勧めしません。「変更管理を必要とする作業管理フロー」が正しい言い方になります。(図2参照)

図2:プロセス・フロー・作業管理フローの関係性

そして、それらをプロセス>フロー>作業管理フローとして設計するときのマトリックス例がこちら。(図3参照)

図3:プロセス・プロセスを落とし込んだフロー・作業管理フロー

プロセスはあくまで設計図、それを作業に組み込める単位に落とし込んだものが各フロー、そしてそれらフローを組み合わせて作業管理フローを設計、構築する。

 

この考え方は、ぜひ実務者として覚えていただきたいところです。

デジタルデバイド(情報格差)を感じた日と日本の教育についての雑記

こんにちは。本日は、ふと、これ怖いな、と思った話です。読んで欲しい方は、子供に関わる大人(親含む)及び地方在住者。

 

 

筆者は、関東圏の政令指定都市在住です。このコロナの後押しもあり、通常は(今でも)在宅勤務、仕事柄ITサービスマネジメントを扱うため、可能な限りエンドユーザ向けの便利サービスは一度は使う、がモットーです。全てにおいて、、、とは思いませんが、デジタル、およびテクノロジーについては、アーリーアダプターかなと思っています。

※参考:アーリーアダプターとは|市場調査・アンケート調査のマクロミル

自分の周囲を見ても、電車に乗る時や街をすれ違う際にウェアラブル端末で決済する人は普通に見かけます。いわゆるタッチ決済ですね。その反面、最寄り駅そばの商店街では、アシスティブタッチを使ってApple Watchに忍ばせたクレジットカードで決済すると驚かれることもありました。(過去形)

財布に現金がなくても気にしません。現金が必要なイベント、突発的に現金が必要になった場合は、近くのセブンイレブンに立ち寄ってQRコード取引で現金を引き出します。(キャッシュカードも持ち歩かない)

イベントもいわゆるWeb会議ツール(ZOOMやTeams、Google Meet)が併用されていることが最近は多いので、よっぽど興味があるものは現地に赴きますが、お試し程度であれば、オンラインで参加します。

電車も飛行機も新幹線も大体ウェアラブル端末のSuicaまたは電子チケットで乗ってしまうため、基本的に物理的な「券」を利用することがこの3年間ありませんでした。なんなら、レンタカーすら、カーシェア&スマホ開錠なので、車移動についてもスマホ以外手ぶらです。

そんな生活ですが、直近6ヶ月以内に2度、地方に所用ありお出かけしました。

 

1つ目の事例。名古屋市から1時間程度バス移動した某市にて。手持ちの電子決済が全て使えませんでした。名古屋市から移動するために乗ったバスから使えませんでした。クレカのタッチ決済はもちろん、Suicaもダメ。iD/QuicPay+もダメ。そして現地でも苦戦します。コンビニはもちろんあり、そこは問題なくいつものオペレーションで支払いできたのですが、その他のお店及び目的地を含めて現金のみ。現地に到着してすぐに実行したのは現金調達でした。全国にあるセブンイレブンでよかった。

そして帰り。帰りはローカル鉄道で名古屋まで向かいました。そのローカル鉄道は、VISAのタッチ決済が使えるようでした。安心していたのですが、なぜか決済できない。最終的には、原因不明で現金で払いました。(運転士さんがオペレーションできなかった)

つまり、私は名古屋駅からその日のイベントの全てにおいて、キャッシュレスを使えなかった。これをITIL4のカスタマジャーニーで分析しても面白いのですが、今日の主題ではない為、割愛。

 

2つ目の事例。関東の地方市に所用でおでかけ。概ね都内の駅からJRの快速で1時間程度かかる地方だと思ってください。もちろん、JR東日本の範囲ですし、都内への通勤圏内ではあるので、決済や移動で困ることはありませんでした。

しかし、待ち合わせのためぼーっと改札を眺めていて気がついたのですが、どの方も改札を「財布でタッチ」していました。ウェアラブル端末でタッチしている人が一人もいない。その時間概ね30分ぐらいだったのですが、一人としていませんでした。もちろん休日なのでヘビーユーザ(通勤通学)がいないということはあると思います。それにしても一人としていない。

もちろん駅前のコンビニも同様です。電子決済音は全く聞こえない。ファストフードでは、モバイルオーダーの注文が入っていませんでした。

 

これは、「地方が遅れている」ということをディスりたいのではありません。デジタルデバイドが始まっているということをお伝えしたいのです。

デジタル化を行わなくても経済が回り生活に困っていないために、デジタル化が進んでいない。

1例目は、そもそも基盤も人材も整っていない事例。

2例目は、基盤があるけれどオペレーションする必要がないため、ユーザが育たない。

この2つの事例でわかることは、都内及び一定以上の政令市では周りの大人たちが平気で行っているデジタル取引を地方市の子供達は見ずに過ごすということを示しています。これから生まれるであろう新しいデジタルデバイスを見たところで、ピンとこない子供を産むということなんです。幼い頃からデジタルデバイスに囲まれ、それを使う大人やそれで遊んでいる大人を見ている子供は直感的に操作を理解し、さらに発展させるための素養を身につけるにもかかわらず、それに触れたこともないまま成人を迎える子供もいるという事態を生む。

結果、都内及び一定以上の政令市とそれ以外の地方でデジタルデバイド(情報格差)を引き起こす。これを一番懸念しています。

小さい時から電子決済を見て自分たちも体感することができる子供と電子決済を一定年齢以上になってから初めて接する子供。これにより、デジタルデバイスを扱ってきた経験、見てきた経験に崖が生まれます。日本は、2050年をターゲットに、中核を担うメガリージョン、高次地方都市連合、小さい拠点の大きく3つに分かれた対流型国土の形成を掲げています。(詳細は、国土計画:「国土のグランドデザイン2050 ~対流促進型国土の形成~」 - 国土交通省)これを考えた際、メガリージョンと高次地方都市連合と小さい拠点の3つでデジタルデバイドが起きてしまっていては対流のしようがありません。そこには崖があり、私自身が1例目で感じたシームレスではない移動体験を生み、小さい拠点に人材を呼び込むことができなくなる。対流できないということになります。

逆パターンでは、現金による資産の可視化、使える金額の可視化になんの疑問も持たないまま育ってしまうことにより、デジタル化による可視化ができず、使い過ぎや詐欺に遭う。簡単に言えば、小さい拠点からメガリージョンに対流しようとした時に、上京してそのスピードと欲に飲まれる、リボ破産にあうみたいなことを懸念してます。

 

2050年まで後27年を切りました。読み書き算盤だけが基本的なスキルである時代は終わり、デジタル(情報)とお金との接し方、つまり金融リテラシー(家庭科 *1 )が加わる時代になりました。まだ27年あります。国土交通省の提唱した対流型国土に向けた教育やインフラの土台は着々と整えられている。むしろメガリージョンとなる地域はものすごい勢い(特に東京圏)でデジタル化されて行っている。今、我々大人は、その土台をより強固にすることが本来の役割ではないかなと思うのです。デジタルと金融リテラシーが読み書き算盤と同じラインにたった今、少しでも2050年の未来に向けてできることを様々なレイヤの人たちが実現できるように努力したいですね。

人口が減っていくことが明らかな日本において、残された人間だけでどうやって今の水準を維持、または発展させていくかに焦点を当てていく必要があります。つまり、今までは人力と根性と努力で回ってきたような部分をすべからくBPR(Business Process Restructreing)してゆくということです。デジタルも金融リテラシーもBPRを進めていくための武器なのです。働く人が2割減るなら、10人で行う作業を8人以下で行えるようにしないといけない。それが仕事になります。AIに仕事が奪われるとか騒いでいる場合じゃない。AIに作業を奪ってもらわないと、自動運転技術に作業を奪ってもらわないと、ドローンに点検作業や配達作業を奪ってもらわないと日本が回らなくなるんです。お金の管理作業はデジタルに奪ってもらわないとやりたいことができなくなるんです。

その危機意識を我々大人はもたねばらなないし、子供達に日本が残せないのだと認識しなければならないと思います。

*1:超絶疑問なんですが、なんで金融教育が投資教育に制限され、かつ家庭科になったんでしょうね?正直社会科でもよかった気がするのですが。範囲が広すぎるか……

ITSM実践編-すでにPESTLEは管理されている

こんにちわ。

やっと話が戻ってきました。前々々回に予告した「PESTLEはすでに管理されている」とはどういうことかを解説いたします。

 

なお、本日のこのブログで使われる言葉は、各企業においては全く違う定義で用いられている場合があります。そのため、この先出てくる言葉が自社と同じ文言であったとしても同じレイヤの文章であることを保証はできません。ご注意ください。

 

まず、再掲。

PESTLEとコーポレート部門との関係

前の記事で、上記のようにPESTLEの6つの要因を実はコーポレート部門がそれぞれの専門性を持って管理しているのである、というお話しをしました。では、「どうやって」コーポレートの各組織はPESTLEを管理しているのか?

それは、実は「内規」なんです。会社員、特に上場企業にお勤めの方はご存知と思いますが、会社には「各種規程」とか「内規」「ポリシー」などと呼ばれる文書がありませんか?実はこれら文書群がPESTLEを管理する「システム」なんです。

文書がシステム?と思われる方もいらっしゃると思いますが、文書もシステムなんです。正確にいえば、これら内規は、それぞれのコーポレート部門が定めた「方針」から始まります。よく聴かないでしょうか?「XXX方針」「XX規程」「XX手順」など。何書いてあるのかちゃんと読まれていますか?そして、これらは大体、「ポータルサイト」から直接リンクが貼ってあります。これら文書、本来であれば大切なものなのに、意外と読んでいる方いないと思います。

なぜなら、それら規程類を満たした形で現場で運用できるように「ITシステム化」されていたり業務管理部門がコーポレート部門と調整しているからなんですね。

現場がなすべきことのみに注力できるように、管理部門はそれぞれの規程の監督コーポレート部門の文書を読み込み、仕組みやシステム化することで「読まなくても仕事ができる」ようにしている。そういう構造なんです。

これらは、ガバナンスの一環で定義されるものです。ガバナンスと聞いて、下記の図を見たことないでしょうか?このガバナンスとそれに基づき定義されている文書群が、システムとして(完全とは言い難いものの)PESTLEを制御している証でもあります。

ガバナンスにおける文書の階層

最上位文書として、目指すべき方向性や達成したい姿を書いたポリシーを据え、その下に、その方針を満たすためのガバナンスの実務(例えば、責任を負う役割が定義されていたり、どこまでを全社/グループ全体の共有事項として定めるのかなどを定義する)レベルの文書として標準を置きます。さらにその下には、具体的にどのような手続き・手順を満たせばルールを守ったこととするのか、のプロセス文書をおき、その下にそれぞれの組織でどのような手続きとするのかの手順文書がある。上から下ろすとこのような構造です。

私の感覚ですが、コーポレート部門は、プロセスまでを定義し、その下の手順はそれぞれの企業文化によって違う(コーポレート部門が定める場合もあれば、各事業部門でプロセスを参照しながら作ることもある)ように思います。

これは、トップダウンで見ると分かりにくいのですが、下から見ると理解しやすくなります。つまり、手順を読んでいて、「なぜ?」と思ったことを調べようとするとプロセスや標準当たると大体わかるという構造になっています。

これを前職では「本社の歩き方」と読んでいる人がいました。言い得て妙ですね。(笑)

下位文書は参照した上位文書を必ず明記します。このように文書でシステムを構成するための絶対的な不文律です。

そうしなければ、文書間同士の繋がりがわからず、「なぜ?」と思った時のリファレンス先がわからなくなります。結果、ガバナンスが崩壊します。このシステムの恐ろしい所は、ここなのです。文書なのでこのシステム全体を知らなくても、またこの文書に従わなくても業務は作れてしまうし、システム化もできてしまう。文書なので下位文書を変更する場合も、上位文書を参照しなくても変更できてしまう。だから文書内にちゃんと上位文書を参照しながら変更しなさいよ、という意思を込めて上位文書を明記する。

日本語そのものがアプリケーションでいうところのコードになっているため、ちゃんと読めばシステム化されていることは理解できるのですが、そもそものコード(文書)の可読性が低いと定義されているガバナンス(システム化され事業が各種法令や規制に抵触しないことを担保する)そのものが崩壊しかねない。

こう言った状況を踏まえ、「本社の歩き方」と言ったのだろうなぁと今更ながら懐かしく、そして素晴らしい日本語のセンスだなと思います。(笑)

言葉だけだと分かりにくいので、具体例として、今まで固定資産でなかった物が固定資産になったというような事例で例えてみます。

 

(事例)固定資産の分類が増えてしまったら

なお、私は管理会計を齧った程度のど素人なので、微妙な言葉の使い方の違いがある部分はお目こぼしいただければ幸いです。ここで伝えたいのは、何かが変わったときにどのようにインパクトを受けるのか、の事例なので。

今回は会計基準の変更などではなく、あくまで固定資産の考え方が変わっただけなので実態として標準から影響が起きていますが、この例のように、PESTLEの「法的要因」の分析に基づき、上位文書からレビューを行うことになります。その結果、すべての階層で変更の要否がレビューされ、このガバナンスという名のシステムが変更されてゆく、という構造になっています。

つまり、ビジネスの現場、実際の業務に近づけば近づくほど、「この手順を守っていれば、会計上、関連の法規制上などのルールを無視していない」ことを担保した手順になっているわけです。もし、これらの文書類がなかったとしたら、都度都度法律上問題がないか、会計基準に照らして正しく財務処理がなされているかなどをチェックしなければなりません。取引ごとに。そんなこと面倒くさくてやってられませんよね?それらを「この手順通りにやっていれば、ミスはないよ」としたものが最下位文書の「手順」な訳です。

なので、特に商業や税制に関わる法律や法令の変更、今までの解釈と異なる判例が出ると、すわ一大事と企業の会計や経理の担当者、会計士の方は大慌てをするわけです。

このように、PESTLEはビジネス(価値を提供し対価を受ける)を進めていく上で非常に大きな影響を与えます。そのため、これらの影響を早期に検知し問題なくビジネスを進めていく上で予めガイドとして定義するものがこの文書によって定義されたシステム、これこそがガバナンスなのです。裏返すと、ガバナンスは、ビジネスを進めていく上で遵守し注意し生かすための地図に似たシステムなんですね。このまま進むと崖があるぞ!だけどショートカットにもなるよ。じゃあ、崖に対応しながらどうやって進もうかと考える、または崖を迂回する、などの対策も考えられますよね。

これこそが、私が「文書と人間の読解力、注意力を合わせたシステムでPESTLEを制御しているのである」という理由です。

 

しかしながら、ここ20年(私の感覚だと2005年)ぐらいから、人間の注意力や既存の組織力だけでは如何ともし難いレベルでPESTLEの対処が難しくまたスピードが上がってきたように思います。簡単にいうと、PESTLEという影響分類のフレームを使って各組織の専門性でもって個別対応するには物事が複雑であり、失敗の及ぼす影響が再起不能なレベルにまで重篤になり、その場その場で適切に判断する必要性が出てきている。

別の例えをするなら、20年ほど前までは、野球です。

野球の裏表の中で、球が放たれて、ワンプレーが完結するタイミングまでは臨機応変にプレーヤーが自分の意思で決定し動く必要がありますが、そのワンプレーが完結すれば、監督やコーチが様々な情報を分析し判断して戦術を駆使すれば良かった。3アウトを迎えるまでに順序を組み立て、状況に応じて様々な戦術を駆使していけば良かった。それを考える時間もあった。

それに対して、今の状況は、野球のワンプレーが延々と続いているイメージです。「常に球がとんでおり、バッターが打ち返し、隙を見ては野手が盗塁を試みてる」みたいな。プレーが中断しないサッカーやラグビーと捉えてもいいかもしれません。そんな状況下で監督やコーチが情報を収集し分析し意思決定を下したとしても、おそらくすでに陳腐化しています。それだけ目まぐるしく状況が変わる状態にあって、特定の瞬間断面の情報を収集し分析したところで、「試合はすでに動いている」のです。

つまり、PESTLEの状況を収集し分析したところで時間の経過により何の役にも立たないのです。現場で判断できる状況を作り上げなければいけない。そんな状況下で文書と読解力と注意力で機能するシステムはあまり役に立たないと言わざるを得ません。

断っておきますが、今まではそれで良かったが、今はそれでは対処できないということであって、文書と読解力と注意力で動くシステムを否定するものではありません。

つまりは、スピードが早く目まぐるしく変化する状況にあって文書と読解力と注意力以外の要素を加えることで、PESTLEに対処するための新しい仕組みを生み出す必要があるよ、ということです。

AgileやDevOpsで言われている「デプロイメントパイプライン」は一つの解と言えます。デプロイメントパイプラインとは、簡単に言えば、テスト自動化の仕組みです。このテスト自動化の仕組みを経由したすべてのサービスは文句なくいつでもリリースできると約束されています。つまり、デプロイメントパイプラインには、ガバナンス観点でのテストも入っており、文書と読解力と注意力がこのテスト自動化の仕組みに組み込まれているという状態を維持しています。なので、法務・財務/経理・内部統制・IRの観点でもコード化されているとベストです。法務観点でコード化できるようなプログラマが存在するのかという問題はありますが(笑)、概念的にデプロイメントパイプラインはそういうものです。人間の注意力や読解力によらず機械でPESTLEの全ての観点で静的テストが実装できるなら、可能となります。

今までは、人力と読解力と気合(注意力)で保ってきたこれらPESTLEへの対処の方法を新しくしてゆく必要があります。

昔と違い、PESTLEの要素が増加し、複雑になり、かつ、それを受け対処する我々働く側の人が減り、働く人が貴重になってゆく今の時代にあって、同じように維持して行かなければならない。新しい価値を生み出すための仕組みにPESTLEの対処を含めなければいけない。

今はまだ文書と読解力と注意力で保てていますがそれが限界を迎える日も近いと思います。この危機に挑むのはITSM実務者の挑戦だと思います。

デジタタル化とデジタルトランスフォーメーション

こんにちは。予告をしているにも関わらず、最近住民票を置いている市でマイナンバーカードを使った面白いサービスを始めていることに気がつき、実際に体験してみました。

それをITILで置き直してみると、マイナンバーカードがDXそのものではなく、DXのための重要な要素なのだなと言うことに気がつきました。

そこで、今回は日本のDXを推進するためにも、あえてマイナンバーカードってまだDXじゃないけどこれからDXを支える要素になっていくんだぜってことをお知らせしたく予告とは別の話を投稿させてください。

 

それを始める前に、皆様、デジタルトランスフォーメーションとデジタライゼーション、デジタル化の違いってご存知でしょうか?

実は、我らがITIL4は、デジタルトランスフォーメーションとデジタル化しか定義しておらず、経産省はそれに加えてデジタライゼーションを定義しています。

それを下記の通りまとめました。

図1:3種類のデジタル推進

巷では、DX、DXと大合唱ですが、そもそも、DXとは、「こうだったらいいのにな」という目標を達成するために、デジタル化したデータをデジタル技術を使って実現することなのです。

文字だけではわかりにくいかと思い、図も用意してみました。この「デジタル化」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション」を絵にすると下記になります。

図2:3種類のデジタル推進の関係性

 

裏を返すと、デジタル化しなくていいものをデジタル化することでもないですし、デジタル技術を使わないでも「最適化」されているのであれば、デジタル化しなくていいのです。

ですが、この最適化が曲者で、残業もなければ人を待たせることもないし、どのような立場、身分、状況にある人であっても同じようにそのサービスが受けられることを最適であるとしています。そんなサービス提供側もサービス受益側もパーフェクトにハッピーなサービスってありますかね?ないと思います。つまりどのサービスも最適化のための余地は残っています。

 

さて、では振り返ってみて、今回の対象になっている行政サービスを見てみましょう&さらにマイナンバーカード導入によってどのように変わったか見てみましょう。

図3:住民向け証明書発行サービスの変化

どう思われるでしょうか?

全くフローもプロセスも変わっていません。変わったのは、マイナンバーカードによって、AのプロセスとCのプロセスにおけるカスタマージャーニーが変わり、「来場する必要性がなくなった」だけです。たったそれだけ、たったそれだけなのに、自宅療養であろうが、家から動けない人であろうが、移動にバリアがある人であろうが、自分で証明書を取得できるようになったのです。プロセスにマイナンバーカードを入れただけで、サービスを受けられる人が圧倒的に増えた。これがデジタル化の効果なのです。プロセスを変えずに、単にデジタル化しただけ。その効果がこれ。

 

では、マイナンバーカードがデジタル化として入ったあと、本当のDXが始まるとどうなるか?

デジタル化することによってしか、成し得ない世界をざっと考えてみました。

図4:DXされた行政サービス

あくまで例ですがこうなるかなと。情報を受け取るだけで3つあったプロセスは、そもそもなくなってしまいます。そして、先程の図3では表現されていなかったプロセスが登場します。つまり、先程分析したデジタルデータをアナログデータに変換して取得するというサービス不要になります。データをアナログ化するための紙も、受付、払い出す窓口もいらない。(資源も人も要らなくなる)

登録することと利用することその2つだけ。そしてその利用に際して住民そのものがその登録された個人情報の利用の承認否認を行う上で本人確認を行うのがマイナンバーカード。

本当の意味のDXとは、このように本人認証を電子化して行えるマイナンバーカードなしではなし得なかったプロセスの最適化を果たすこと。それがDXなのです。

確かに現状のマイナンバーカードは課題が多い部分はあります。しかし、そもそもアナログ化されている本人認証をデジタル化された本人認証に置き換えるための準備なのです。そこで起こりうる諸問題は、問題管理を行い、デジタルに置き換える際のどのプロセスに問題があったのかの検証を行うべきです。

一部の方々がおっしゃるようなマイナンバーカードとその意義に対してケチをつける話ではありません。2040年には働く人そのものが貴重になることが目に見えている中で、その貴重なリソースをいつまでもアナログで処理し続ける方向に持って行ってはならない。本人確認がデジタル化される、その一点においてデジタルトランスフォーメーションを進めるため、自分たちのデジタル化された情報をコントロールするための大切なデジタル化される機能なのです。

 

デジタル化されるだけで利用者がここまで増える。ここに来てさらにDXにまで踏み込めば少ないリソースで最大の効果が出せるようになる。そのための主要機能がマイナンバーカードである。それをどうか理解してほしいと思います。

ITIL4 DITS試験を振り返る

最近、遠ざかっておりすみません。

実は、ITIL4の中位モジュールであるDITSの講義と勉強に費やしており、記事の更新を控えておりました。

----以下余談-----

個人的な考えなのですが、試験対策とその実践(思考実験や整理、成果を出す)は、明確に違うと思っています。

つまり、

試験対策は、教科書を書いた人がその理解度を測る(つまりは、きれいなITIL)ための物。

実践は、きれいなITILを現実世界に置きなおすため、崩したり、優先順位をつけてあきらめる部分もある。

こういう違いがあるため、自分の経験や現場の情報をベースにした実践と、「正確性」に重きを置く試験対策は両立させてはいけない、と考えています。

よってもって、記事の更新もやめていた、と。。

ぶっちゃけ、時間がなかった、という話もあります

---余談終わり---

さて、今日のお題に対する内容は下記3つです。

始めます。

どのくらいのボリュームの勉強を、どの程度の時間をかけたか

まず、公式書籍は239Pです。(参考文献、索引込み)

そして、今回ご用意いただいたテキストは200P弱でした。

講義の期間は8時間の講義を3日。(24時間)

かなり駆け足でやっての時間ですので、個人的には4日に伸ばしていいんじゃないかと思うのですが、そうすると受講料も上がりますので、難しいところですね。ただ、24時間で終わる量ではないなとは思います。

そこからさらに自学自習の時間として689分(だいたい12時間)実施しています。

この自学自習は、次のことを行いました。

  1. シラバスで定義されている範囲を公式書籍で読み込んだ上で、該当するテキストとその時のメモを参照し、習ったことと公式書籍の内容をノートに整理してまとめる。
  2. それをシラバス全編に渡って行ったら模擬試験1を受けて、間違った点を再度確認、ノートに加筆する。
  3. まとめ終わったら模擬試験2を受けて、間違った点を再度ノートに加筆する

調子が良ければ1日2時間、少なければ30分ぐらい。(シラバス1個ぐらい)仕事で時間が取れない場合は実施していません。なので、土日の自分の時間を潰して概ね2週間半ぐらいかけています。

したがって、

勉強量:トータル2冊の本を講義・自習を含めて36時間

勉強期間:生活と仕事の合間を縫って講義開始から3週間程度

が私の事例となります。例えば介護・育児と並行するならもう少し長めにみていいと思います。

ITIL4は、授業とテストが別日程です。テストは、受講後1年以内に自分の都合のいいタイミングで受けることになりますので、それぞれの家庭事情に応じつつ、最遅でも受講後2ヶ月以内を目処に計画を組み、家族の助力を得て受験されれば良いと思います。(2ヶ月で12時間の勉強時間を確保することはどうにかなるかなと言う考え)

TOEICの公開試験のような集合型の試験と異なり、自分で選べますので、勉強計画が立てにくいとも言えますが、自由に選んでいいととも言えます。この機会をチャンスと捉えられるようにしたほうがいいかなと。

試験対策

試験対策として、絶対やってはいけないと思うのは、講義受講後、即座に試験を受けることです。(ITILv3とは真逆)

DITSは、今までのITILと異なりかなり戦略的要素が強く、かつ出題範囲が幅広です。別の言い方をすると、SIer側で実践をしてきた方にはかなり理解が難しい領域です。なぜなら、この戦略的な領域は、露骨に稟議書や決議書に書かれる部分を示しているからです。SIerとして提案し導入支援を行う立場の経験では、経験していない領域です。つまり、想像がしにくい。

授業の内容を確かめ、教科書でまたはテキストでなんと言っていたのかを確実に理解しておく必要があります。Bloom Taxonomy Levelも2ならただの暗記でなんとかなりますが、Bloom Taxonomy Level 3(分析・適応)以上で出る問題数も多いです。ただ暗記しても解けませんし、かなりニッチな用語や概念を使った問題も出るため、安心はできません。

また、問題数がMPに比べ少ないのに、合格最低点はMPと同等(70%)です。これの意味するところ、1問が重いと言うことです。単純化すると、ミスっていいのはたった9問。この9問に如何に到達しないかが勝負の分かれ目です。

なお、すべて選択式の問題なのですが、選択肢に示されている解答案は、すべて合ってるんです。誤解がないように言いますと、「書いてあることは全て間違ってはいない。ただし、問題文に照らした場合に不適切な提案/ソリューション/活動である」と言うものばっかりであると言うことです。見当違いなことが一切書いてない。

そのため、試験対策としては、ITILの試験にありがちな直訳主義を受け入れ、かつ、問題文で問われている内容は何か?(出題者はどの理解度を測りたいのか)を読み解く。これが試験対策です。試験対策になってねー(笑)

これを体得するには、模擬試験を有効に使うことです。

つまり、前述の自学自習の内容を愚直にやる。

  1. シラバスで定義されている範囲を公式書籍で読み込んだ上で、該当するテキストとその時のメモを参照し、習ったことと公式書籍の内容をノートに整理してまとめる。
  2. それをシラバス全編に渡って行ったら模擬試験1を受けて、間違った点を再度確認、ノートに加筆する。
  3. まとめ終わったら模擬試験2を受けて、間違った点を再度ノートに加筆する

これを愚直にやるのが一番いいなと思います。それでも私、6問間違えましたが

試験を受けて、ITIL4は何を目指そうとしているのかを改めて振り返る。

今回、ITIL4 DITSを受講して強く感じたことは以下2つです。

  • 本質的なユーザの価値に焦点を当てている(勘違いしてはいけません。ユーザ組織の価値に焦点を当てていません)

  • DITSは、ITSM(IT Service Management)と言う表現は不適切で、ITMSM(IT Marketing & Service Management)だと思う

DITSは、Digital & IT Strategyの頭文字なので、デジタルとITを経営戦略とを統合させることに重きを置いたBOKです。したがって、経営戦略や事業戦略といった言葉が飛び交います。ただし、一般的に想像できるような「目標数値XXXX」ではなく、もっと体系的に、ビジョン、目的、達成目標、具体的な指標と言うように整理されたものです。

株式公開企業のWebサイトや株主総会資料のような感じです。あれらの文書に記されている目的や目標を達成するためには、当たり前ですが、ユーザの価値に焦点を当てなければ達成できません。どんな目的やビジョンも、ユーザからお金をもらうと言う積み重ねでしか達成できません。そんな当たり前のことを体形立てて、かつデジタルとITと経営の戦略と合致させることを強く意識しています。

したがって、このDITSを理解できると言うことは、ボードメンバ(経営幹部)そのものか、ユーザの感じる価値に肉薄し対価を得ると言うところを意識できる懐刀として、幹部と戦略を一緒に検討する能力を得ます。あくまで能力を得るだけであってその能力を使いこなせるかどうかは別ですけど。

 

今までは、ビジョンや目的を達成するためにITを使うこと(手段)がITSMでした。

それに対し、今は、ビジョンや目的を達成するためにITを上手く使う(目的・ビジョンを達成する道具として素早く取り入れる)こともスコープに入ってきた。

 

一言で表すと、経営・及びビジネスにおける基礎的な学力として「読み書き算盤+(次々と現れる最新)テクノロジー」になったと言うことを強く意識しました。

とはいえ、数多のテクノロジーをそれぞれ実験なんかできるわけがないですし、予算は有限です。ではどうやってそれらを上手く付き合い効果効率的にビジョンや目的を達成するのか。それは、DITSが考え方を教えてくれる。

 

答えがない、またはどれが正解かわからない時代にあって、どのように捉え考えるべきなのか。一見、定性的に見えるこれらを、上手く調整し付き合っていくべき方法を定義する方法を教えてくれるのが、DITSなのだ、と言うのが私の理解です。

ここはすごく大事なポイントで、解決策を教えてくれるのではなく、解決策を考え実行するための方法を教えてくれるのです。

 

言うなれば、勉強を教えるのではなく、勉強方法を教える、みたいな感じでしょうか。

ITSM実践編-本社機能(コーポレート機能)とPESTLE

こんにちは。本日は、ITSM実践編として、企業、特に株式を上場している企業(株主への説明責任のために一定以上の透明性を持った事業を遂行する企業)において、ITIL4が実は企業のことを考えて作られているのだ、と言うことを説明しておきたいと思います。

 

 

初心者向けの実践です。いわゆる、「素人質問で恐縮ですが・・・」*1に焦らないためのものです。(笑)

 

まず、PESTLEをちゃんと説明していないような気がしており、そちらの説明から始めます。

PESTLEとは、ITIL4における6つの外部要因のことを指します。下記図の破線にオーバーラップしている6つの要因です。(この図を単体で初めて出しました)

ITIL4における4つの側面と6つの(外部)要因

この6つの外部要因の頭文字をとってPESTLEです。大切なことは、この6つの外部要因はサービス提供事業者には変更できないと言うことを理解しておくと言うことです。正しく捉えて情報収集し、6つの外部要因に合わせて4つの側面を変化させ対応するるため定義しているだけだと言うことです。

  • 政治的要因(Political)
    • そのビジネスを行う上での政治的な要因を指します。ものすっごく極端なことを言えば、その国・地域・地方においてどのような「統治」がなされているかと言う要素です。
  • 経済的要因(Economic)
    • その国、地域の経済成長や経済の安定性などを指します。例えば、インフレ傾向であるため、さまざまなものが値上がりすることが想定されるとすると、4つの側面それぞれに影響しますよね。パートナーとサプライヤは値上げするでしょうし、組織や人材にも給与面でインフレを考慮する必要があります。
  • 社会的要因(Social)
    • これも捉え方が難しいですね。社会的な要因でビジネスが果たす役割が変わってくることを指します。例えば、昨今「企業の社会的な責任」と言う文脈で企業は様々なことを求められています。一番いい例としてはSDGsでしょうか。「8.働きがいも経済成長も」なんかはこのような社会的要因によるかなと考えられます。
  • 技術的要因(Technology)
    • 言わずもがなですが、AI(Chat GPT)やクラウドをはじめとしたPaaSなどこれらを扱うのか扱わないのかを選択するためには、そもそも情報を収集し使いこなせるのか、または使いこなすために何をするのかを常々考える必要があります。
  • 環境的要因(Environment)
    • 先ほどのSDGsで考えることができますよね。例えば、「事業活動に要するエネルギーで発生するCO2をゼロにする」なんて目標がたったに日には、情報システム部はDCで使用するエネルギーを再生可能エネルギーに変える必要性が出てきます。
  • 法的要因(Leagal)
    • これもわかりやすいですね。事業をする上で関連するありとあらゆる法律に適合していることを保障しないといけません。

ちなみに、これらは複合的に絡み合います。具体例を示しましょう。

Chat GPTに対して政府が方針を示さなかったと仮定します。その時「便利だから」と言う一点において、ChatGPTをコアテクノロジーとして使ってしまったと考えてみてください。その後、政府が公式にChatGPTの利用を禁じてしまったら、ビジネスそのものが成り立たなくなりますよね?*2

この事例は、政治的要因と技術的要因が、4つの側面の「2.情報と技術」に作用したと言うことです。

同様に、労働3法(労働基準法労働組合法、労働関係調整法)は6つの要因に対してどのように影響するでしょうか?

私が思うに、「法的要因」のみならず「政治的要因」「経済的要因」に作用します。このように我々が普段見聞きするビジネスを取り巻く環境に影響を与えるキーワードはこの6つの外部要因に照らして分析することで、その影響が見えてくるのです。そして、この6つの要因はビジネスが作り上げたサービスに対しても作用します。

例えば。個人情報を使った新しいサービスを思いついたとします。それに対して「法的」「社会的」「経済的」逸脱をしていないかを予めチェックすることが求められるますよね。

個人情報を使った新しいサービスといえば。そう、マイナンバーカード。

今様々なところで様々な観点で散々文句を言われたり揶揄されたりしていますが、これも結局この6つの要因で考えると、「社会的要因」のチェックの甘さで今トラブっているし、マイナンバーカードで提供されるサービスのうちコンビニプリントサービスは「技術的要因」で下手こいた。

この様に、サービスの分析もできるし、世に出す前のレビューでも使えるのです。

 

さて、質問です。ITSMの実務者として、または、情シスの担当者として、これら6つの外部要因それぞれに対して正確に分析・把握することはできるでしょうか?

正直に申し上げます。無理です。我々が普段見聞きするビジネスを取り巻く環境に影響を与えるキーワードに対して、「政治的」「経済的」「社会的」「技術的」「環境的」「法的」の観点でチェックするなんてできませんって。範囲が広すぎます。じゃあ、どうするべきか。Chat GPTを使うなどはある意味では正しいのですが、今議論したいのは、Howの枝葉を議論することではないので。(笑)

もっと根本的な話として、これら6つの要因は企業におけるコーポレート機能が担う業務だと言うことです。

PESTLEとコーポレート機能

つまり、コーポレート機能とは事業部門が自由にビジネスを行うための番人。なお、ここでいう自由とは、「好き勝手に進められる」と言うことではありません。「何かをはじめようとする時に、そのしたいことを外部要因で妨げられないこと」です。もう少し簡潔にいえば、自由とは、「したいことを進める上で妨げられないこと」と言い換えてもいいです。(限度はありますけどね)

つまり、事業部門が何か新しいことをはじめようとする時に、「社会的要因の件について事業部門様はどの様にお考えですか?」と言ってしまうのではなく、「事業部門が進めている案件について、社会的要因であるXXが障害になる可能性があるため、ZZの様な対策を検討しましょう」と言えることです。まぁ、こうできるのは最低限で、最も適切なのは、「このやり方で検討してもらえれば、あなたのやりたいことは実施できます」と言うレベルの仕組みに落とし込んでいる状態が最も適切です。(調整する必要すらないので)

なので、ビジネスを進める、その一点においてサービスをオーケストレーションしたい人は、この6つの側面とそれに相対できるコーポレート各部門のプロフェッショナルと仲良くなり、「教えてください」「助けてください」を明確に言える様になっておく必要があります。

この役割は、一般的にはサービスオーナ、またはプロダクトオーナと呼ばれる人の役割だと思いますが、それに限らず、この整理術に気がついた情シスも同じように応用できます。

 

前回ご説明した役割とともに、「会社の歩き方」としてPESTLEに相対できる社内のプロフェッショナルを頭に叩き込む。こうするだけで、あなたは、自分の考えたサービスが早くリリースできるようになるはずです。

 

実はこの概念はかなり昔から整備されていて、本質的に「会社の歩き方」がわかっている人は本当は今でも事業を自由に進められるんですよね。それは次回、説明したいと思います。これは、持ち運びできるスキルなんです。今までは暗黙知として社内のみに閉じていましたが、やっと可視化されたスキルなんですよ。

 

珍しく次回予告。「PESTLE」はすでに制御されている。

*1:別バージョンとして、「基本的な質問で恐縮ですが」もありますね。要するに、基礎知識の理解及び説明が足りていない可能性を考慮しての枕詞であり、だいたい質問者は素人ではないと言うのがキモです

*2:本筋と関係ないので注釈で。こんなことありえないと思いますか?日本は憲法に基づき、一定の自由が保障されていますが、一方、他国においてはその権限がない国もありますよね?軍事クーデターが起きたミャンマー、強権を発動しているフィリピン、一党体制の中国、北朝鮮。使用するテクノロジーに対して自由であると断言できますか?ITILはグローバルナレッジです。それぞれの国の事情も勘定に入れておく必要があります。

ITILの重要な役割解説-顧客とユーザそしてスポンサ-

こんにちわ。本日は、いわゆるITSMが意識するべきユーザ組織の役割について、少し実践的な解説をしたいと思います。これ、定義があやふや(明確に決めていない)情シスが非常に多いです。これを記載するのは、少しでもユーザに寄り添ったITSMを作りたいと考えるがゆえです。

さて、ITSMの実務者を名乗って都合5年以上経過しておりますが、特にユーザ側の担当者は誰がどの役割なんだということに比較的無頓着かなぁと心配になっています。

よくシステムオーナ、サービスオーナなどの役割を定義されていますが、それが具体的に何に対して責任を負っているのかを理解している人は非常に少ないなと感じているが故の発言です。

企業においてそれぞれの役職者がどのような責任を負い、何を目指しているのかを理解せずに適切な報告・連絡・相談ができるでしょうか?明確な決裁権者無くして、プロセスは活動できませんし、意思決定もできません。

自分はどの立場で発言をしているのか。

自分はどの立場で聞いているのか。

これを話者も聞き手も意識しなければ、効果効率的なコミュニケーションにはならないのです。そこで、本日のお題です。ITIL4において、どのような役割があり、それは現実に当てはめるとどの役職になるのか。

ITIL4では、サービスの利用者側組織として役割が3つあります。

  1. スポンサ
    • サービスの消費にかかる予算を承認する役割
    • そのまんま、予算の承認を行う人です。役割はシンプル(笑)
  2. 顧客
    • サービスの要件を定義し、サービスを消費した成果に対して実行責任を負う役割
    • 一般的には、業務オーナ、システムオーナと呼ばれます。例えば、決算作成業務が定義されており、それをSAPを使って構築しようと考える組織がいたとします。
      この時、この「構築しようと考える組織」が顧客です。
      別の例で考えます。販売管理を行う組織があったとしてください。本社側で日次で売上を取得したいという要求があったときに、セールスフォースを使って現場に日次の売上を入力させる、といった業務側のプロセスを設計する部門です。比較的管理的な側面が強いですが、業務を理解していないとプロセスが作れないという意味では、業務の流れを理解しておかなければいけない組織です。
      このように、事業そのものの業務プロセスやそのプロセスを効率化させるためにシステム化を検討する部門や組織がこの顧客になります。
  3. ユーザ
    • サービスを利用する役割
    • アプリケーションにログインし、何らかの業務を遂行する実際のシステム/サービスの利用者や、社給(標準)PCの利用者を指します。またサービスデスク・ヘルプデスクに電話などで問い合わせを行う人も指します。この3つです。

ちょっとわかりにくいので、下記のように業務システム運用を例にして説明します。

ITIL4のアクタ整理


スポンサは事業部門長(または、その変更内容によっては課長)になります。業務システム運用のユーザとは、実際にそのシステムを使う人になりますので、システムに入力する営業所や工場、拠点の社員、また本社にいる管理担当社員になります。顧客は、これら事業のプロセスを司る本社にいる課長や管理担当者になるとお考えください。

ここで注意すべきは、「XXシステム」「XXサービス」の顧客は課長であるだから課長は顧客の役割である とか、スポンサは事業部長であるだから、他のシステム/サービスにおいても事業部長がスポンサになる と、役職と役割を延髄反射で固着して定義してはいけないと言うことです。

どう言うことかというと、下記の通り、製造課長は確かに製造管理システムの顧客ではあるのですが、製造管理システムのユーザにもなりうりますよね。他にもPCを利用すると言う意味では社給PCサービスのユーザですし、サービスデスクに問い合わせればユーザになります。さらに、自身の部下の勤怠管理を行うために勤怠管理システムのユーザになりますし、部下を評価すると言う文脈では評価管理システムのユーザでもあります。製造管理システムの顧客であろうとも使うシステムによってはユーザにもなりますし、もしお金のかかるシステム変更の承認権限を有するなら製造管理システムのスポンサになる可能性もあります。

ITIL4の役割は役職とは紐づかない

上記図の通り、製造課長は製造管理システムの顧客でありユーザである。と言うことです。これ、当たり前のことなのですが、我々ITサービスマネジメントの実務者及び運用担当者もよく混乱したまま話を進めます。さらにタチが悪いのは、この製造課長も自分がどの立場で発言しているのかを明確にしないまま話すことが多いです。(苦笑)

例えば、顧客の立場で「コストが高い」と言うことであれば、サービスレベルやKPIに対してもう少しいけるんじゃないか?とか、委託している業務量に対して価格が高いなどの不満があると言う文脈で理解しなければいけません。しかし、ユーザの立場で「コストが高い」と言うことであれば、具体的に何かのサービスの対応に対して不満があると言う文脈になります。もしシステムにお金を投資することが可能な権限を持っている状態(スポンサとしての役割を兼務する)であれば、「コストが高い」と言う意味は、(もう少し価格が低ければ)私の責任で変更できるのに・・・・と言う文脈になります。

役割と役職を安易に紐づけてはいけないと言うことをご理解いただけたでしょうか?

誤解を恐れずに言えば、ITSMの実務者は感情労働者です。ビジネスプロセスを設計し可視化するだけではなく、こういった相手の役職と役割を認識しつつ、どの役割に基づいた感情の発言なのかを汲み取り、ゴールに向けて伴走する能力が求められるからです。

ITSMの実務者は、企業のガバナンス(統治)に配慮しつつプロセスを定義し、プロセスを遵守するフローを設計し、運用状況とサービス品質の可視化を遂行する。さらに、企業の役職者と役割を紐づけ、かつ常にどの役割での発言なのかを読み取り、関係者全員のオーケストレーションを担う。*1

コレが、ITSM実務者としての動き方だと思います。その時、我々、ITSMの実務者が役割を知らずにコミュニケーションを図ってはいけません。チームがバラッバラになります。

ぜひこの役割は頭に叩き込んでください。目の前の人が違って見えてきますよ。

*1:文脈としてはコーディネートでもいいと思うのですが、ちょっと違うと思うのです。「調整」役というより「調和」を目指すので